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【それぞれの金字塔、らしさ】高野史緒『ムジカ・マキーナ』(書き手:狛街都心)


 それぞれの金字塔、らしさ 


 94年日本ファンタジーノベル大賞最終候補作、高野史緒『ムジカ・マキーナ』。

 長く部室で埃を被っていた今作を、益岡先輩に頂いた同作家『ヴァスラフ』の予習としてこの度紐解いてみた。

 面白い小説である。19c末の西欧、究極の音楽と麻薬<魔笛>にまつわる歴史改変型SF。

 このスピーディーだが重厚な書き口と抜群のエンターテイメント性には、世界史にとんとご無沙汰な無知な筆者ですらも掴んで離さない力があった。オルガン対決、医大での屍体調査など手に汗握るシーンは多々ある。

 



 今作を皮切りに高野史緒は「音楽SF」作家としての自身をどんどん売り出していった。

 史上稀に見る混沌に包まれた時代に、<機械の音楽>というSFファクターを深々と突き刺した今作は、ストーリーラインだけを追っても存分に楽しめる。だが、彼女が評価される点はそこだけではない。音楽を愛してやまないことが十二分に伝わる筆致。ダンス、パンク、プログレッシブ・ロックなどをさらりと絡ませる遊び心。それらを支える音楽史への膨大な知識。

 自身の最大の武器を用いて果敢に新ジャンルを模索したが故に、彼女は賞を取らずとも今作を出版、現在も一線で活躍しているのだろう。



「発明は組み合わせから生まれる」という言葉がある。千野帽子氏が日経のサイト内コラムで「ここ300年で面白い作品など出切っている。作家を目指すなどどう考えても蛮勇だ」という趣旨の言を述べている。どちらも再三再四言われてきた真理に他ならないだろう。

 オリジナリティなどという幻が本当にあるとすれば、それは既存のジャンルの融合だ。両者の距離間が遠ければ遠いほど珍しいものが出来上がる。我々ワナビの蛮勇を長続きさせ、果ては新人賞受賞、その後一線で売れていくためにも我々はその幻を追いかけなければならない。悩む。

 ――つまりは、これほどまでにスマートかつ泥臭く誰にも真似できないオリジナリティを確立させる作家から、我々ひとりひとりが何を学べるか。

 差は、こういうところから生まれいづるのではないだろうか。