〔Aパート〕

 

 俺の名前は速攻カケル! 大学五年生の普通の男の子だ! 趣味はカードゲーム全般。

 そんなオレっちだけど、またカードショップから出禁を食らっちまった! これで五十店舗目、千葉県内のほとんどのカードショップに行けなくなった身だ。トホホだぜ……。

 サーチ行為をしたり、対戦中にカードをパチパチやって相手の集中力削いだり、ジャッジと仲良くなって不正を見逃して貰ったりしただけなのに、なんでこんな目にあわなきゃいけないんだよ~。

 まったく、世の中間違ってるぜ!

 でも、今日のオレっちは一味ちがうぜ! なんてったって今日は新しいブースターパックの発売日! こいつを買い占めて小中学生に転売すれば、なかなか良い稼ぎになるから、そいつでまたレアカードを購入だ!

 って、思ってたのに。

「ダメダメ、君には売れないよ」

「なんだよ! いいぜ、もう来ねぇよ! ダボハゼ!」

 店から飛び出すオレっち。

 ちぇ、ここもかよ~。

 出禁を食らって無い店でもオレっちの名前が知れ渡ってるなんて、有名人のツラい所だぜ!

 あ~あ、これで新しいカードが買えないんじゃ、一体ぜんたい何のために親からの仕送りを残していたのか解らないよ~。

「いよいよ、潮時かぁ……」

 なーんて、オレっちが落ち込んでいると――。

「だ、誰か、助けてくれサルー!」

 お、なんだなんだ、叫び声が聞こえる。

 オレっちが声を頼りに松戸の駅前を駆け抜けると、東京ガリバーの前の自転車の山の中で、メガネの男が今にも倒れそうな不自然な恰好で必死にバランスを保っていた。

「あ、そ、そこの人! 助けて欲しいサル!」

「一体ぜんたい、そんな恰好で何をやってるんだ?」

「し、知らないサルか? オイラの手元を見るサル!」

 言われて見てみると、男は自分の両手の人差し指二本の上に小さな木製のブロックを積み重ねたものを乗せている。形自体は良く知っている、そう、あのハラハラドキドキが病み付きになるゲーム、ジェンガそのものじゃないか! でも変だぜ、あんな不安定なものを指に乗せて、なおかつ自転車の山の中なんていう危険な場所にいるなんて……。コイツ、頭がイカれてるぜ!

「イカれてるぜ!」

「ほ、本当に何も知らないサルね! これは今、巷で大人気のゲーム、ジェンガバトルなんでサルよ!」

「ジェンガ、バトル?」

「そうサル! 今、このジェンガバトルは若者を中心に大人気なマストアイテムで、二人のプレイヤーがマイジェンガを手の上に乗せ、お互いに相手を妨害しつつ相手のジェンガのブロックを抜いていき、先に相手のブロックをゼロにした方が勝つっていう遊びでサルよ! 主にタカラトミーのホビー事業部が展開する企画で、コロコロコミックやなんかで連載されるし、テレ東で夕方からアニメ化される予定もある、まさに、今これから間違いなく来るホビーなんでサルよ!」

 熱い説明を受けたぜ!

「そうか、それでお前はなんでそんな恰好で……」

 って、オレっちが疑問に思っていると。

「もー、カリギュラくん、先に行き過ぎだよぉ~!」

 なんて可愛らしい声! 振り返ってみると、うわお、あのピンク色の髪でクルクルヘアーの女の子は――。

「ア、アイちゃん?!」

「え、あれ? カケルくん、どうしてこんな所にいるの?」

「どうしてもこうしても――」

 彼女はオレっちのバイト先の同僚で、ぶっちゃけオレっちがワンチャン狙ってる女子高生の天津星アイちゃん。にしても、なんでアイちゃんがこんなメガネの変なヤツとぉ~!?

 オレっちが視線をキョロキョロさせていると、アイちゃんの方から察してくれたのか、

「そっかぁ! もしかしてカケルくんもジェンガバトルに参加するの?」

「へ?」

 全然察してないぜ!

「なんだ、そうだったのサルか!」とメガネ。

 そうじゃないぜ!

「えっとね、私とそこのメガネ、カリギュラくんはジェンガバトルの全国大会を目指して特訓中なんだ。そう、ジェンガバトルは今や世界規模のホビーだから、世界大会があって、その為にはまず全国大会で一位にならなくちゃいけないから、さらにその前に県大会、さらに地区予選を突破する必要があって、私とカリギュラくんは一緒のチームでやってるんだけど、最近になってずっと一緒にやってたグリズリー龍くんがマグロ漁船に乗せられちゃって数年帰って来なくて、このままだと三人一組のチームで予選にも出場できなくて困ってた所だったんだけど……」

「ぶっちゃけ助けて欲しいサル!」

「あ! さっきの助けてってそういう意味か!」

 ガッテン!!

「ね、お願い、カケルくんの力が必要なの!」

「そ、そう言われても、オレっちは千葉県一のカードファイターで……」

「別に良いサルよ! アイちゃん! ジェンガバトルも知らないトーシローにそこまで頼る必要は無いサル!」

「な、なにを~!」

 その一言に久しぶりにキレちまったオレっちは、思わずいつもの相手が見てない隙にデッキから余計にドローするクセで、そのメガネの手の上にあるジェンガから数本ブロック抜き取っていたんだ!

「ヒョ、ヒョエ~!! い、今の一瞬で、ま、まさか二本取りをやったサルか~!!」

「カ、カケルくん、すごい……」

 なんだか感動してる二人をよそに、オレっちは手にしたジェンガのブロックを握り締める。なんだこの気持ち……、今、オレっち、久しぶりにワクワクしたってのか……!

「へぇ……、ジェンガバトル、か」

 そういや、最近は小学生相手にカードゲームで無双するのに忙しくて、他の遊びなんて目もくれなかった。正直、オレっちは慢心してたんだな。でもそうだ、よっしゃ、これも何かの風向きだ!

「いいぜ」

「え?」と二人。

「オレっちも、そのジェンガバトルを始めるぜ!」

 速攻を、かけるぜ!

 

 (アイキャッチ)

 

〔Bパート〕

 

 それからのオレっち達は大忙し!

 早速オレっち専用のジェンガを買いに、近くのジェンガショップに行った所、そこでジェンガマスターのジェンキンスさんに出会い、そのままの勢いで18回払いで買わされた古い桐製のジェンガ、そう、それこそがオレっちの相棒ジェットプライムペイチャンスだったんだ。

 こうしてオレっち達はついに地区予選に参加したんだけど、どっひゃ~! そこでもまたまた大波乱! 無許可のまま夢の国っぽい所でジェンガバトルをやったのが大問題になって、千葉県大会がおじゃんになっちまった! どうすりゃいいんだよ~!!

 なぁーんて、オレっち達が途方に暮れてた所、近くの公園で会った着物を来たヒゲのオッサンが、げげげ、なんとバトルジェンガ協会の会長だってんだ! オレっち達は会長への袖の下でなんとか特別枠での出場が認められ、ついに夢の全国大会への切符を手に入れたんだ!

 大阪代表のたこ焼きジェンガに、新潟のスキージェンガ、広島代表と福岡代表の暴力団ガチ抗争、すんげぇ奴らとのジェンガバトルを繰り広げ、オレっち達はついに日本一の栄光を手にした、はずだったんだが……!

 なんと決勝戦の最中、ジェンガバトルによる世界征服を目論む巨大組織BNゲームスがオレっち達、ジェンガバトラーを拘束しちまった! どうなっちまうんだよぉ~、オレっち~!

 って、思ってたら、ブラックジェンガバトラーの一人で奴らの仲間の一人だったドラゴン灰色熊がオレっち達を逃してくれて……。よっしゃ、ここからはオレっち達のターンだ!

 速攻をかけるぜ!

 オレっち達、正義のジェンガバトラーは力を合わせてブラックジェンガバトラー達を物理的になぎ倒し、世界征服を目論むBNゲームスの会長との決戦……、だって時に! お、お前は!

 そう、オレっちの前に現れたのは、他でもなく、オレっち達を助けてくれたはずのドラゴン灰色熊だった。一体どういうことだってんだ! でもよ、オレっちはこんな所で負ける訳には行かねぇぜ!

 速攻を、かけるぜ!

 そうしてオレっちはドラゴン灰色熊との壮絶なジェンガバトルを始めたんだが、アイツの駆使する一段ぶち抜き戦法に四苦八苦! オレっちは自分のジェンガを守るのに精一杯で、全然アイツのジェンガを崩せないでいたんだが、そこでついにオレっちは真のジェンガ力に覚醒、ドラゴン灰色熊の足元に奪われたブロックをばらまき、ヤツから機動力を奪うことに成功したんだ! アイガァッリ(I got it)!!

「くっ、俺は一体……」なんてセリフと共に、大量のジェンガの中で倒れていたドラゴン灰色熊が目を覚ますと、アイちゃんが駆け寄る、なな、なんで~! なんて思う間もなく、そう、オレっちは気づいちまった、ドラゴン灰色熊は借金を抱えてマグロ漁船に乗ってたグリズリー龍だったんだ! アイツは借金を肩代わりして貰うかわりに、洗脳されたっぽいフリをしながらオレっち達と敵対していたんだ! でもいいぜ、龍! もうオレっち達は争う必要なんて無いんだからな!

 こうして目を覚ました龍は、今まで封印していた最強のジェンガバトラーとしての力を駆使し、悪の会長へと立ち向かっていったんだ! モチロン、その横には龍のことが好きだったアイちゃんも一緒で、ついでに仲間だったカリギュラも一緒、三人で立ち向かって、その上、龍のことを慕ってた全国のジェンガバトラーも力を合わせ、全ての力を結集して会長を倒そうとしていた!

 オレっちは正直、始めてから一週間くらいだったんでアウェイ感が半端無かったぜ!

 とにもかくにも、こうして正義のジェンガバトラー達によって会長は倒され、再びアイツらの元にジェンガバトルが帰ってきたんだった。

 正直、オレっちはあの時に感じたアウェイ感を払拭することもできず、しかも龍が帰ってきたことでチームでの居場所も無くなってしまい、今後の身の振り方に悩んでいる。

 そろそろ就活のことを考えなくちゃいけない。

「うん、うん。いや、いいんだって、最近はみんなそんなもんだって。卒業すれば良いんだからさ」

 オレっちは母親からの電話に適当な相槌を打つ。

「大丈夫、うん、速攻だって速攻。俺が就活やったら速攻終わっから」

 アイちゃんは、第一志望の大学に受かったらしい。龍がいる所だ。

「いや、やるって。やるって言ってんじゃん」

 カリギュラは普通に慶応大生だったらしく、既に数社から内定を貰ってるものの、自分のやりたいことをやる為にタカラトミーに入るのだという。

「解ってるっつってんだろ! 卒業はするってぇの!」

 電話を乱暴に切ってから、俺は自分の部屋に飾られたジェンガバトル全国大会のトロフィーを見遣る。

 金色に光り輝き、崩れることのないジェンガの形をしたトロフィー。俺の人生は、こんなもんだったんだろうか。メッキをかけて、無理やりに接着剤で立たせて貰ってるような。

 こんなことが、やりたかったんだろうか。

 俺がトロフィーを撫でると、積もっていた埃が指についた。

 手を洗う為、少しだけ歩くことにした。

 

 (エンディング)

 

 

 

 

〔次回予告〕

 

 オッス! 俺、速攻カケル! 元ジェンガバトラーだ!

 人生に行き詰まっていたオレっちの元に、うげげ~、黒服の集団が来やがった!

 そいつらはオレっちを希望の船に乗せるらしい。いいぜ、やってやらぁ!

 って、だ、誰なんだ、あの可愛い子ちゃんは~!!

 次回! 「希望の船!?太平洋で出会ったアイツ!」

 来週もオレっちと一緒に、速攻かけようぜ!

 

 (提供クレジット)