【74号夢幻賞&品評会】

【夢幻賞】

 

1位 凪宵悠稀『なにかいる』

2位 河音小判『もしもサチコが死んだなら』

3位 甘士河汀『オーセンティック行進隊』

 


 

74号品評会では以下の作品が話し合われました。

 

【1日目】

  • 有栖正午『せいじょうよりあいをこめて』 
  • 有栖正午『どうせならフィルムの褪せるように』
  • 柚科葉槻『CoRDⅤ:真の願いは君を呼ぶ』
  • 甘士河汀『Ongoing』
  • 浅上皐月『灰色の鏡 三章』
【2日目】
  • 鬼殺空想達磨『エーブリエタースの先で』
  • 甘士河汀『オーセンティック行進隊』
  • 凪宵悠稀『なにかいる』
  • 河音小判『もしもサチコが死んだなら』
【3日目】
  • 上野葵『詩の詩』『夜空』
  • いぶきふうか『にごり茶』『夢に春』
  • 月島かな『閉ざされたさなぎの中で』
  • 倉下げる『クロノオリ 灯夜編』
  • 波多野琴子『なきごと』

 74号のテーマは「お茶」です。

【1日目】

 お久しぶりです。今回のブログ記事は凪宵がお送りします。気がつけば前回このブログに出没してから一年近く経っていました。もう三年生ですよ。

 この分だとあっという間に卒論書かされてあっという間に大学から放り出されそうですね。怖い怖い。

 ……と、まあそんなことはどうでもよろしくて。今回は4月21日に行われた萬屋夢幻堂74号品評会、その一日目のレポートです。

有栖正午『せいじょうよりあいをこめて』

 モールス信号を用いた……というか、まるごと全編モールス信号で構成された異色作。品評会しょっぱなからこれですよ、ゾクゾクしますね。

 新入生歓迎号ということで、萬屋の自由さを作品を通して新入生に知ってもらいたかったそうです。また、昨今の萬屋を取り巻く『新しいことに挑戦しよう』という気風に乗りたかったともおっしゃっていました。

 作品の性質上恐らく『読まれない』であろう作品。しかし、読者に読まれないからこそこの作品は物語として完成する……この仕掛けはまさにやったもん勝ちでしょう。

 一方で「奇抜なことをやろうとしすぎて失敗しているのではないか」「モールス信号単体ではただの記号の羅列でしかなく、作品として成立させるには読者とこの作品を繋ぐ何かが欲しい」といった意見も。新しいことへ挑戦した後には、いつだって課題が残るものですね……。

有栖正午『どうせならフィルムの褪せるように』

 有栖先生二作品目は詩でした。森田童子の歌から引用しての作品ということで、他の作品から引用しての作品作りについてのお話が出ました。引用するならばその上で元の作品には無いメッセージを伝えるべき。引用したうえで同じことを言うのでは面白みがない……とのこと。

 その他には日本語の韻についてなども話題に上りました。最近は冊子の中に掲載される詩の本数も増加傾向ということで、「ちょっと一枚噛んでやろうかしら」なんて考えているナギヨイにとってもタメになる品評でした。

柚科葉槻『CoRDⅤ:真の願いは君を呼ぶ』

 65号より続く連載作品、堂々完結! 改めまして、おめでとうございます。

 品評会では柚科先生お手製のシリーズまとめプリントが配布されたりと、先生の愛の詰まった作品だということが伝わってきます。

 設定の回収や安定したキャラクター造形などには評価が集まりましたが、一方で最終回ならもっと盛り上がっても良かったのでは? という意見もありました。『最終回だからこそ』という連載作品ゆえのハードルの高さというものは読み切り作品とは違った部分で大変なもののようです。

 柚科先生はこの春で大学を卒業されましたが、この作品にはまだ「先」があるようです。きっとどこかで、また会えるでしょう……。

甘士河汀『Ongoing』

 萬屋夢幻堂一漢字変換がめんどくさい作家こと甘士河汀。僕は彼の名前を入力するときは「甘い武士」と入力してから縮めているので、もう僕の脳内では勝手に甘党のお侍さんになっています。甲冑着込んで団子とか食ってます。

 そんな甘い男の最新作は、人工知能が搭載されたカメラが人のいなくなった世界で映画を撮り続けるという物語。映画、AI、ポストアポカリプス……甘士先生の好きなものがぎゅっと詰まったみたいな、そんな印象を受けました。

 読みやすいライトSFでありながらロードムービー的であり、そしてどことなく漂うラブコメの波動(死語?)……色々な側面を持ったこの作品はそれだけに好みに思う人も多いのではないでしょうか。

 甘士先生自身苦手だと言っていたキャラ造形についても好評が集まりました。しかし、物語が開始から終わりまであまり大きく動いていない事などに惜しいという声も。もっと先が見たかったと、僕自身も思いました。作者的にはドラマ性を排した作品を想定していたそうですが、生き生きとした二人の人工知能の作り出す世界は思っていたよりもドラマチックだったようです。よく「キャラが独り歩きする」なんて現象があるとまことしやかに囁かれますが、もしかしたらこの作品がそうなのかもしれません。もちろん良い意味で。

浅上皐月『灰色の鏡 三章』

 70号より続く連載作品、堂々完結! ……うん、さっきも同じこと言ったね。

 最終章らしく、異様な盛り上がりと異様なスピード感で駆け抜けた青春ストーリー。それぞれ毛色が違った一章二章を踏まえた上で、その両方の雰囲気を継承した第三章はまさしく集大成。

 三点リーダーの効果的な使い方、展開の急さ、キャラクターの扱いについて、エピローグの効果、等が主だった論題でした。こうして並べてみるとまだまだ課題は多そうですが、これを補えるだけの不思議な魅力がこの作品にあったのも事実。

 敢えて誤解を恐れずに書くと、この作品は狂っているんです。人が、舞台が、世界が。しかし、その狂った世界を物語としてまとめ上げている作者の技能は本物でしょう。

 浅上先生の持ち味は「ナチュラルに狂った」(議事録そのまま)キャラ造形だと思います。この武器をさらに磨かれたとしたら……きっと、とんでもない作品が出来上がるに違いありません。期待してるよ! だって君連載終わらせた唯一の現役生だしね!(勝手にハードルを上げていく)

 はい、こんな感じです。個人的な74号の総評ですが、なんか作品を取り巻くエネルギーみたいなものがどんどん濃密になっているような気がします。部誌の厚さだけでも、僕が入部した当初よりもかなりブ厚いですし。この流れは、とても良いことだと思います。この調子で皆面白いものをどんどん書けたら良いですね。

 夏号は新入生も華々しくデビューを飾ることでしょう。掲載作家の顔ぶれがどんどん入れ替わっていくことにどことなく寂しさも感じますが、なんだかワクワクします。さて、そろそろナギヨイもPS4のコントローラーを置かないとね。

 それでは、またいつか。

【2日目】

こんにちわ、上野葵です。

前書き? 書きませんよ。3日目担当の甘士河汀先生は前書きが一番悩むと言っていましたが、私は書きません。書かないという宣言が前書きになっているので良いのではないかと。

では、さっそくさくっと。

鬼殺空想達磨『エーブリエタースの先で』

キャラやセリフが高く評価されました。読みやすく、ギャグが伏線に絡んでいたり、連載でありつつも1話の中で起承転結があったりと技術面においても高い評価がありました。

ただ、主人公の善悪の葛藤については1話の段階では早すぎるという意見やギャグにおいてリアリティがかかる場面が見られるとの指摘も。ヒロインの必要性などが問われ、主人公の葛藤について説明をささる役割を負わせてもよいのではという意見もありました。

甘士河汀『オーセンティック行進隊』

おもしろいという意見がありつつも作者の意図するものではなくなってしまったようです。その点においては作品の雰囲気づくりや作者の真面目さが裏目に出てしまったという指摘がありました。また作中から伺える様子から問題解決が遅いとの指摘がありました。

凪宵悠稀『なにかいる』

 

恐怖の持続性が長い面が評価されつつもいまいち怖さがないという指摘がありました。作品全体の雰囲気づくりが原因ではという指摘も。

連作となっていたためその順番や統一性が考えられていなかった点においても怖さを半減させてしまうものがありました。またこだわるところが違うという意見があり、どこを掘り下げ文字数を裂くのか考えるべきとも。

河音小判『もしもサチコが死んだなら』

藪の中方式で書かれた点において技術的に評価されたものの、朝井リョウ『桐島、部活やめるってよ』にのっとられているためその作品を読んだ人からは低評価でした。そのためオリジナリティに欠けると指摘がありました。また死ぬかというものは大きすぎる要素であったとの意見も。

2日目は以上となります。

【3日目】

 弟がVBに嵌りました。甘士河汀です。

上野葵『詩の詩』『夜空』

 はい。我が部が誇る会計さんであり、言葉へのフェティッシュが強いことで知られる葵先生の詩ですね。詩は化石、という発想からスタートしたそうな。詩が持つ永遠性や、色合いの出し方が評価されました。『詩の詩』に関して、より踏み込んだ演出が必要との意見も出ました。僕ァ、小説も読みたいです。

いぶきふうか『にごり茶』『夢に春』

 『にごり茶』は小説で、『夢に春』は詩です。小説は初挑戦だったそうですが、不慣れながらもコンパクトに纏めた作品でした。一方で、キャラクターの掘り下げや感情の上下動の拙さが指摘されました。『夢に春』はその美しさから高評価が多く見えた作品でした。前作と比べても格段の成長が見えました。

月島かな『閉ざされたさなぎの中で』

 書きたいものを書いた、ということで賛否両論が出た作品ですね。少年の、ちょっとした勇気とささやかな成長を描いた作品でした。ラストシーンがあれで良かったのかという意見や「好きなものを書く」という姿勢と作品のギャップが指摘されました。しかし、良かった点としてジェンダーをテーマに据えながらも安易に恋愛を扱わなかった点や、主人公にポジティブな印象を受けたという意見が出ました。

倉下げる『クロノオリ 灯夜編』

 さあ帰ってきましたよ、9ヶ月ぶりですかね、倉下さん家のげる君です。連載第一話ですが二話であるという噂もあるそうです。なお品評会は本人病欠のため、作者不在で行われました。明るい先輩とデートするお話でした。嘘ですが。いや嘘ではないかもしれない。ラノベ的文体には賛否ありましたが、そういう作品なんだからオッケイということですよ、オッケイ! キリスト教系モチーフの使い方や建築知識の不明瞭さが浮いてしまっているという意見も見受けられました。

波多野琴子『なきごと』

 詩ですね。なんか詩多くないですか? 良いことだと思います。エッセイなんかも誰か書かないかなと。食レポとか読みたいです。人狼をモチーフとした嘆きの詩でした。小説的な詩で、シンプルに纏まっていて良かったという意見が複数見受けられました。詩として突き抜けられなかったなという印象もありましたが、この詩が次に出す小説へと繋がっていくそうなので、ある程度萬屋を読んでいる人には楽しみが増えた、ということなのではないでしょうか。

隣でゲームをやっている弟から「おるやんけ、どなたかおるやんけ」という声が聞こえます。甘士河汀でした。