季節は春、桜は八分、ランドセルは色とりどり。赤、黒、青、橙、水色、ピンク、紫、その他まさに色々。下校中の小学生をなんとなしに眺めながら、コーヒーを一口。空は快晴、カフェ日和。

  真面目さだけが取り柄な僕は、単位取得も上々。今日は午前で講義は終わり、いつもの駅前のカフェでのんびり過ごす。コーヒーのおかわりをもらい、そろそろかなとそわそわする。

  彼女はいつもミルクティー、五人グループでさながらプチ女子会。今日の彼女は春の装い、淡い春色、素敵なパンプス、シュシュは控えめ、シャツはフリル。彼女の頬は桜色。僕は少し離れた席で、彼女たちの会話が漏れ聞こえる。新作の化粧品、通いつめの美容室、今年の流行色、僕には馴染みのない言葉が飛び交い、彼女は優しく微笑んでいた。一時間ほどで女子会は終わり。綺麗なスカート、ふわりと浮かせて、彼女は席を立って行ってしまった。僕はコーヒーの飲みすぎでトイレに駆け込んだ。


  季節は梅雨、今日は雨。僕は相変わらずコーヒーを一口。そろそろかなとそわそわしていると、五人組は来なかった。彼女が一人で、カフェの前を素通り。少し長めの髪揺らして、泣いていた。茶色がかった髪は湿気でぼわぼわ、お構いなしに彼女は泣いてる。僕がコーヒーを急いでやっつけている間に、茶色は傘に隠れてしまった。紫陽花のようなピンクの水玉、水滴弾いて、キラキラピカピカ光ってる。太陽が少し顔出して、虹が出てた。僕は彼女を追いかけられない。涙を流す彼女の横顔、可愛い彼女に首ったけ。こんなとき、学校で習ったことは何も使えないね。


  季節は夏、アイスコーヒーを一口。今日は彼女が話し掛けてきた。にっこり咲いた笑顔はひまわり、こんにちはと言うその声はさざ波。私はコーヒー飲めないんです、そう言う彼女に僕はガチガチ。太陽が照り付ける、汗が頬を伝う。彼女の顔は陽よりも眩しい。テンパる僕は、本当はコーヒーは好きじゃないと、正直に打ち明ける。キャラメルマキアートが好きなんですと言うと、彼女は素敵と一言笑う。その日からコーヒーはやめた。その日から時々彼女とプチデート。


  季節は秋、本当は知ってる。彼女に好きな人がいるくらい。それでも僕は、手を差し出す。きらびやかな光に包まれたダンスホールは、お洒落さんがたくさん。彼女は秋色、ワンピースが素敵。僕は冴えない一人の学生。きらきらと光を浴びらている僕と彼女、僕は彼女に差し出した手を引っ込めない。彼女の頬は紅葉のよう。忘れられない日にしたいから。いつまでも覚えていたいから。


    「僕と踊ってくれませんか」

 


<了>

 

-読了後の感想をお伝え下さい-