昼寝をしていた時のことだ。夢の世界から現実に意識が帰ってくると、体が動かない。目覚めてはいるのに体がゆうことを聞かない。
金縛りだ。
科学的に言うと金縛りは、意識は覚醒しているが、肉体が眠っている状態を指すのだと言う。今の私がまさしくその状態だ。とにかく笑ってしまうくらいに動かない。脊髄不随になったらこんな感じなのかと、私はくだらないことを考えていた。すると、
ギシッ
と音が聞こえてくる。
家鳴りだ。
どうやら、襖を閉めずに寝てしまったらしい。わずかに開いた瞼の隙間から、階段が見える。窓からはさんさんと太陽光が入ってきているせいか、階段の辺りがやけに暗い。やけに、暗い。
ギシッ
また、家鳴りだ。やはり階段から聞こえてくる。心なしか、さっきよりも音との距離が近い。妹が帰って来たのかとも思ったが、出かける間際に今日はバイトだと言っていたから、こんなに早く帰ってくるはずがない。何より、妹にしては歩みが遅すぎる。
ギシッ
登って来る。
何故だかわからないが直感的に私は理解した。登ってきている。誰かが、いや、何かが登って部屋に入ってこようとしている。
襖を閉めなくては。
そう思い必死に手を伸ばそうとしたが、私の命令どおりに腕は動かない。襖を閉めただけで、登って来ている何かを防げるのかは定かではないが、とにかく襖を閉めなくてはいけないと私は必死だった。だが、焦れば焦るほど、聴覚ばかりが鋭くなっていき、ほら、また――
ギシッ
家鳴りだ。そうに決まっている。ただ、階段の木材が乾燥して伸縮しているだけだ。その証拠に階段には誰もいない。影もなにもない。何も見えない。なのに――
ギシッ
いよいよ、音との距離が近い。やばいやばい。映画や漫画で腐るほど繰り返されてきたシーンとあまりにも酷似してきている。これは一体なんの冗談だ。体は一向に動かない。こんな時、フィクションの世界の主人公達はどうなったのだったか。何かが部屋に入って来るすんでの所で目覚めて、話しの幕を閉じるのだったか。それとも――
最悪の光景ばかりが頭を過る。やめろやめろ。くるなくるな。嫌だ。
汗が滲みでてくる。
ギシッ
――登り終える。
来るな!
叫ぶがそれすらも声にならない。とにかく無我夢中に、躍起になって体を動かし、襖へと腕を伸ばす。ようやく、肉体も目覚めてきたのか、ぎこちないながらに言うことを聞くようになってきた。
もう少し、もう少しだ。
ギシッ
動け!
すんでの所で私は襖を閉めることに成功した。気付けば身体は汗でびっしょりだ。だが、そんなことどうでもいい。深い安堵。崩れるようにして、布団の上に戻る。そして、緊張が途切れたせいか、再び眠気が襲ってきた。だから、この後聞いた音が夢の産物なのか、それとも現実で聞いた音なのかは、終ぞわからない。ただ、意識が途切れる刹那に、家鳴りではない、あまりに人間的な音を私は聞いたのだ。
チッ
と舌打ちをする様な音を――。
<了>