暗い。ここはいつだって暗い。真っ暗だ。
しかも、狭い。暗い上に狭い。寝返りを打てないほどみんなとの距離は近い。
揺れている。世界が揺れる。なんども壁に打ちつけられる。
痛い。眼の中に何か入ってきた。眼がひどく痛む。細長いもの。銀色の細い針。いや、違う。光。光だ。眩い光が天井から微かに差し込んでいる。
出れる。あそこから外に出ることが出来る。もう、暗いところは嫌だ。でも、駄目だった。また、僕は選ばれなかった。
僕達は神様に選ばれたらこの部屋から出ることができる。部屋が揺れて、天井から光が差し込むのは神様が助ける子供を選んでいる合図だ。でも、僕はもう三ヶ月もここにいる。早い子は三日でこの部屋から出ていくのに、僕はいつまでたっても選ばれない。
お前は絶対選ばれないんだよ、と桜色の頬をした子は言った。白い肌をしたお前ら一族は代々嫌われ者だから、と勝ち誇ったように言った。嫌な奴だ。自分だってまだ残っているじゃないか。そんなことはないと僕は反論した。僕だって外に出れると。でも、頭を過るのは不安な事ばかりだ。
昔、壁越しに話した友達の事を思い出した。その友達も僕と同じ血族だったらしい。
彼がいる部屋ではもう彼以外は残っていなかった。同じ姿をした仲間は全員頭を割られて、死んでしまったという。僕も時間の問題だ、と彼は言った。言葉は震えていた。
次の日に彼は消えていた。彼が居た部屋もなくなっていた。全部がなかったことになっていた。
僕が居る部屋もどんどん人が減っていく。
最初の頃とは比べものにもならないくらい人数は少ない。みんな天井の穴を通って外に行ってしまった。
もう駄目だと覚悟した。僕が居る部屋にも僕と同じ一族の子は居た。でも、彼等も僕も悉く選ばれない。たまに、神様に選ばれる子もいたけど、すぐにこの部屋に戻ってきた。怖くてしょうがなかった。
部屋が揺れる。天井が割れる。
人が少ないから壁に打ち付けられる回数も多い。みんなこうやって死んでいったんだ。
思いがけない事が起こった。僕はどんどん部屋の外へと近づいていく。光の方へ。もう少し、もう少しだ。
光が僕の全身を包み込んだ。
*
「あ、はずれだ」
「何味?」
「薄荷」
短髪の少女が掌の飴玉を捨てようとする。
しかし、隣に佇む長い黒髪の少女がそれを制する。
「いらないなら私にちょうだい」
「あんた薄荷なんて食べるの? 物好きだねー」
「食べてみると意外とおいしいよ―今何か言った?」
「言ってないよ。どうしたの?」
「耳元で何か言われた気がしたんだけど」
「気のせいでしょ。あ、ほらバス来たよ。走んなきゃ」
黒髪の少女は納得いかなそうだが、友達につられて走り出した。でも、彼女が聞いたのは幻聴でも気のせいでもない。暗い部屋の男の子は少女の口の中で確かに呟いたのだ。
――ありがとう。
12/02/14 更新
常山切子