「僕、だって?」

 こくこく。

「買い被りすぎ、だよ」

 アカルくんは大人びた調子で、アンティークチェアに腰掛ながら、手近な黒檀の置き物を磨いてホコリを落としている。対する私は備え付けの床几に座りつつ、アカルくんが出してくれたほうじ茶をすする。

「僕はただの骨董屋だよ。確かに、同年代の子よりも、職業柄かな、色んなことは知ってるけど、まだ子供だからね」

 それは、失念していた。

 なんだか恥ずかしくなってきたので、手元の湯飲みを無駄に回したりしながら、アカルくんの透き通った視線から逃げるように、仙狸堂の中を改めて見回してみる。

 辺り一面に雑多な骨董品。

 洋の東西を問わず、陶磁器にガラス、漆器、高そうな掛け軸や、果ては流木や何かの動物の骨まで陳列されている。

 私が中野ブロードウェイに来る目的は、今までは古本を探すくらいだったけど、今ではここも巡回コース。

 それにしても。

 気も落ちつけたので、改めてアカルくんの方をジッと見てみる。まつげ長いなぁ。

「なんで見つめるのかな……」

 なんか困ってる。

 買い被り、って言ってたし。

 でも、私はアカルくんのことを尊敬している。

 年齢とか、私は、そういうのをあんまり気にしない――先輩や先生にタメ口を聞いて怒られることも多い――人間らしい。だからアカルくんに対しても、尊敬する先生に接するのと同じように、つい話を聞きにきてしまった。

 それが迷惑だったのなら、きっと私はよくないことをしてしまったのだ。

 ごめんなさい。

「別に――」

 私が心の中で呟いたことに、アカルくんが反応する。

「迷惑とかは、思ってないからいいよ」

 一瞬だけ目を逸らして、そう言ってくれたアカルくんに、私は小さく笑顔を向ける。

 やっぱり骨董屋さんっていうのは、色んなモノを通して、物事を観察する能力が鍛えられるのかな。

「それで、お姉さんはどう思ってるのかな?」

「わたし?」

 そうか、そういえば私は話すだけ話して、自分がどう思ってるかは伝えてなかった。

 そんな大したことは考えられないけど。

「結婚って、難しい」

「それは……、まぁそうだね」

 苦笑いと、本当の笑顔が半分。

「きっと、何か勘違いがあるんだと思う。そうじゃないと、その外国の人が、すごいイヤな人になっちゃう」

 私の答えに、今度は「ふふふ」としっかり笑ってくれて。

「お姉さんの周りは、きっと良い人たちばかりなんだろうね」

「なのかな」

 なのだろう。

「これはね、多分――」

 

 その時、がらっ、と。

「ああー! めろ、居たぁあー!」

「あ、今日ちゃん」

 仙狸堂の引き戸を開けて、むすー、とした表情の今日ちゃんが入ってきた。私服のジャンパースカートにツーサイドアップの髪型が、とても小学生みたい。

「小学生じゃないっつーのに、ちくしょう、迷子扱いしやがって、あの警備員めぇ。っていうかなんだよ、四階って、こんなに入り組んでんのかよぉ。っていうか、閉まってる店多すぎだろぉ」

 つかつか、つんつん。今日ちゃんは私の方まで近づいて来て、二の腕を必死に引っ張る。

「ほらぁ、めろ、帰るよ。アンタが遅いから、四階まで探しに来たんだよ?」

「あ、うん、ちょっと待って」

 と、アカルくんの方をちらり。

 なんか、眉を下げて、呆気に取られた表情。

「もしかして、お姉さん、その友達と一緒に来てたの?」

 うん。

 今日ちゃんは趣味の都合上、中野ブロードウェイだと二階と三階しか用が無いから、いつも私とは別行動。

 今回も、私は四階に行くと言い残していたのだけど。

 心配して迎えに来てくれたのかな。

 ちらり、と。

「な、なんだよぅ。めろがあんまりに遅いから探しに来たんだろぉ!」

 今日ちゃんは、恥ずかしそうに束ねた髪を振って、あっちこっちに視線を動かしてる。きっと寂しかったのだろう。

 ごめんね。

「表情だけで謝るなぁ!」

 ぎゅー、っと、私の二の腕を握り込む。

「あのね、今日ちゃん、この子ね、アカルくん」

「え、なに?」

 突然の紹介に面食らった感じで、今日ちゃんは訝しげな顔を浮かべたまま、アカルくんの方に視線を移す。アカルくんの方も、ちょっと困った感じで微笑んでみせる。

「えっとね、前にイケメン探偵に会った、って話したっけ」

「ああ、聞いた聞いた。って、なんで今そのこと話すのよ?」

「あ、だからね、この子が、イケメン探偵」

「んぁ?」

 ジトォ、と、疑り深い視線で、アカルくんを下から上まで眺めてる。

「めろぉ、良い機会だから教えてあげるわ。イケメン探偵っていうのは、こういうのじゃないのよ!」

「こういうの……」

 ってアカルくん。

 ちょっと笑顔が引きつってる。

「もっとナイスミドルなオジサマで、落ち着いてて、ちょっぴりワイルドで、なおかつジェントルマンな存在のことを言うんだってば! 確かにイケメンな香りはするけど……、惜しいのよね。三十年後にまた会いましょう!」

 言われたい放題のアカルくん。

 ごめんなさい。

 私が目を伏せると、ちゃんと理解してくれたのか、アカルくんの方もアイコンタクトで応えてくれた。

 仕方ないね、って感じ。

「ね、今日ちゃん、とりあえず座って。アカルくんに話を聞いてみよう」

「え? イケメン探偵に例のこと話す、って、あれ本当にこの子に話してたの?」

 なにやら、今まで私の冗談だと思っていたらしかったので、さっきまでの経緯を話してみた。ついでにアカルくんも、ここでようやく自己紹介。

「ははぁ、そうなんだ。小学生で、大変なのねぇ。あ、さっきはなんかごめんね、お姉さん暴走しちゃって、変なこと言ったよね、アカルくん」

 お姉さん、を強調して胸を張る今日ちゃん。

「いえ、慣れてますから」

 そう言って小さく笑うと、さらにアカルくんは「新しくお茶淹れてきますね」と続ける。

「う、ぐ」

 その時、今日ちゃんから漏れた声は、きっと立ち上がったアカルくんの背が、今日ちゃんよりもほんの少しだけ高かったせいだと思う。

「リ、リボンの分は勝ってるし……」

 うん、勝ってるよ。

 

 

 

 という訳で。

 その後、何故か腕を組んで立ち上がったままの今日ちゃんを含んで、ほうじ茶とバニラの香りの中、さっきの話の続きをすることにする。

「それで今回のお話は、その外国人の彼氏が、なんで突然、変なことを言い出したのか、だよね」

 私と今日ちゃんが、こくり、と頷く。

「僕は、込み入った事情とかは知らないから、僕の知っていることだけしか言えないけど――そうだな」

 と、アカルくんは体をひねって、自分の後方の棚に置いてあった小さな人形に手を伸ばす。ちょっと届かなかったのか、さらに上半身を伸ばして、それを掴む。やっぱり子供って体が柔らかいんだなぁ。

「これ、なんだか解る?」

 アカルくんが掌の上に乗せて見せてくれたのは、陶器で作られたと思われる、親指サイズの人形が数点。形は様々で、ヨーロッパの民族衣装を着た女性のものと、旅行鞄、王冠みたいなやつ。

「なんだろ、ミニチュア? 食玩?」

「フェーブ、っていうんだよ。フランスの新年のお祭りで使われる陶製の小さな人形さ」

 聞いたことない。

「たとえ話をするけど、もしも、お姉さんたちがフランスに行って、新年のお祝いに参加したとして、この人形をどうするか聞かれたら、なんて答える?」

「え、なんて、って」

 今日ちゃんも、アカルくんの話のペースに乗ってきたらしく、興味しんしんといった様子。

「うーん、新年のお祭りでしょ? 神棚に飾るとか、ああ、でもフランスに神棚なんてないしなぁ」

 アカルくんはすっかり訳知り、といった調子で、一方の訳の解らない表情の今日ちゃんを置いてけぼり。私も解んないんだけども。

「フェーブはね、新年の特別なパイの中に一つだけ入れておくのさ。切り分けた時に、それが入っていた人は、その年が幸福に過ごせる」

「あ、知ってる知ってる。確か、それってガレット・デ・ロワでしょ? 中に入ってるものの名前までは知らなかったけど」

 がれっと……、おいしそう。

「めろがなんかヨダレ垂らしそうな勢いなんだけど……。いや、それはいいとして、だからそれがどうしたの?」

「文化が違えば反応が違うってことさ。お姉さんは良いけど、何も知らないで、食べてたパイから陶器の人形が出てきたら、どう思う?」

「そりゃ、驚くわね」

「それだよ」

「え、どれ?」

「その程度の話、ってこと」

 にこり、と笑うアカルくん。

「それでお姉さん。その相手の外国の人ってさ、スペインの人なんじゃない?」

 えぇ、と、驚きの声を上げる今日ちゃん。

「それもきっと、バレンシア地方の人だと思う」

「そ、それは――。ねぇ、めろ、私そんなこと話したっけ?」

 ううん。

「私も聞いたことないよ」

「そうよね、私も別にどうでも良いかと思って話さなかったし。うん、そう、その人、確かスペインのバレンシアの人だって。お姉ちゃんも今度、新婚旅行でその辺に行く予定だったらしいから」

 口をもごもごさせながら、なんだか不思議そうな今日ちゃんが、そう答える。

「ねぇ、めろ。この子、なんなの? エスパー少年?」

「そんなのじゃないってば」

 ふふふ、と笑うアカルくんは、だけれどなんだか、本当になんでも知ってる超能力者の人みたい。

「僕はただの骨董屋。でも、キュリオハンターとしても、少しは役に立てたら嬉しい」

「きゅりお……、なんだって?」

「キュリオハンターだよ、今日ちゃん」

 私が言葉を継ぐと、今日ちゃんは意外そうな顔を向けてくる。たまには、ちゃんと話したいから。

「物が好きな人。それから、物に込められた意味を見ることができる人。だよね、アカルくん」

 肩をすくめて、小さな唇の端を上げるアカルくん。

「さて、それじゃあ、どこから話そうかな。でもまぁ、ウチは骨董屋だから」

 アカルくんは、そう言いながらアンティークチェアから立ち上がって――今日ちゃんは無駄に身構える――店の一角に向かうと、今度は30センチくらいの大きさの、つややかな乳白色をした、精巧な天使の置き物を持ち出してきた。

「これはアンティークの世界だと、ポーセリンって呼ばれているものだよ」

「ぽーせりん?」

 私も知らない。

「日本語だと磁器だね。陶器とは素材が微妙に違うから、一緒くたにはできないけど、併せて陶磁器で扱っているかな」

 アカルくんがガラステーブルの上に置いたそれは、髪の毛の一本一本まで作り込まれていて、しなやかな体が、きらきらした肌で表現されている。

「ヨーロッパの陶芸の歴史は、スペインから始まったんだよ」

 涼やかな声で、アカルくんは目を細めて。

「古代の技法は別として、今の西洋陶磁器の元はイスラム陶器なんだよ。それがスペインに伝わって、イスパノモレスク陶器が作られたのが始まり」

「ほへー」と今日ちゃん。

「世界史でやったよ、今日ちゃん。スペインは中世までイスラム文化圏だった、ってやつ」

「そう、その時に戦争から逃げてきた陶工の人たちが、集まったのが、地中海に面したバレンシア地方なんだよ。だからバレンシアは、スペインが誇る陶芸の都市でもあるのさ。有名なものだと、パテルナ、マニセス、アルコナの陶器かな」

 アカルくんの言葉に圧倒され、口を開けたまま、何も言えないでいる今日ちゃん。骨董なんかについて喋る時の、アカルくんの知識量は、私でも毎回驚いているから。

「ちょ、ちょっと待って、うん、解った。確かにお姉ちゃんの彼氏はバレンシア出身だけど、それと陶器が、っていうか今回の話と、どう関係あるの?」

「バレンシアにはね、陶芸の他に、もう一つ有名なものがあるんだよ」

 有名なもの?

「ラス・ファジャス、っていうお祭り」

 らす……なんだ?

「これはバレンシアの春のお祭りでね、街中に大きなオブジェと、ニノットっていう張子の人形が飾られるんだよ。日本だと、東北のねぶた祭りなんかで使われる山車が似ているかな。向こうも色々な題材で、個性豊かな人形を作るんだよ」

 私は想像してみる。

 街中が遊園地のパレードをやってるみたいな、カラフルな人形に囲まれている愉快な光景だ。

「でもね、このラス・ファジャスの本当の目的は、人形を飾ることじゃないんだよ」

「どういうこと?」

「ラス・ファジャスの語源は、ラテン語で松明。投票で一位を獲得した人形以外は、その日の夜に火をかけて、盛大に燃やし尽くすんだよ」

「ええ?! もったいな……」

 って。

「ああ!」

 今日ちゃん、何か気付いた様子で、私の方を見つめてくる。うん、私も気づいたよ。

「そうなんだよ。このバレンシアの火祭りは、春の訪れとともに、無病息災を願う大事なお祭り。日本にも人形を使って、無病息災を願う春のお祭りがあるよね」

「それって……」

 アカルくんの話に、なんとも言えない表情を浮かべて、神妙な様子の今日ちゃん。

 きっと、これが答え。

 真面目で情熱的なスペイン人の彼氏さんは、決して酷い冗談を言った訳ではなくて、自分の国のお祭りと日本の雛祭りの共通点を聞いて、なんとも思わずに人形を燃やすかどうか呟いてしまったのだ。

 それは、私達がさっきの小さな陶器の人形を見て、神棚に飾るのかどうかを聞くくらいの調子で。

「うーむ。そうだったのか、それなら姉ちゃんもちゃんと確認しとけばいいのに……。あ、でも待って、その後、彼氏さんが弁償の為に結婚式の引き出物を探してた、ってのは?」

 それはね、と、アカルくんは足元の小さなマガジンラックから、一冊のカタログを取り出してきた。

「1953年、バレンシアの小さな村で三人兄弟が陶磁器を作り始めた。今では、それは世界的な陶磁器ブランドな訳だけれど」

 言いながら、アカルくんはぱらぱらとカタログをめくる。その中では、なめらかな乳白色の陶磁器の人形たちが、優しくて暖かい笑顔を浮かべて、あちこちで踊っている。

 とても綺麗だった。

「確かに、結婚式の引き出物としても有名だけどね。日本では別の時期にもコマーシャルしてるよ。聞いたことないかな、特に雛祭りや、端午の節句の時に」

 ぴた、とカタログをめくるのを止めて。

「リヤドロのポーセリン製の雛人形。これ、すごく良い物なんだよ」

 開かれたページには、磁器製のお内裏様とお雛様。

 優雅で柔らかい笑顔に、複雑な着物の柄の細部まで彩色されている。これが陶磁器だなんて、信じられないくらいの、立派な雛人形だった。

「そ、それじゃあ、結局、お姉ちゃんの彼氏は、結婚式の引き出物じゃなくて、そのリヤドロのお雛様を探してた、だけなの?」

「だと思うよ。なによりリヤドロは、日本の文化とバレンシアを結ぶものだからね」

 その時、いつもみたいに笑いかけてたアカルくんは、私の方を見て不思議な顔。

「お姉さん、どうしたの。笑ってるけど」

 あれ、私、笑ってるのかな?

 きっと、うん。きっと嬉しいのだ。

 そのスペイン人の彼氏さんは、常識が無いなんてことはなくて、ただ少しのすれ違いがあるだけで、本当はお互いの文化を大切にしようとしている。

 結婚って、そういうことなのかな。

 なんて、私がませたことを考えていると、アカルくんもここで「ふふ」と笑ってくれて。

「断っておくけど、僕が言ったことがそのまま正解じゃないからね。僕は自分が知っていることを付け足して、外側から眺めただけだよ」

 小さく息を吐いて、アンティークチェアに背を預ける。

「人はね『なにが』贈りたいかじゃなくて『なんで』贈りたいのかを考えるんだよ」

 見てみれば、今日ちゃんもなんだか優しく薄笑いを浮かべている。

「それを考えた時に、正しいモノ――ライトスタッフ――が現れる。ただ、それだけ」

 それだけ言うと、アカルくんは目をつむる。

「アカルくん」

 ありがとうございました。

 私が丁寧に頭を下げると、今日ちゃんも一緒になって頭を下げた。見ると、アカルくんは一度だけこちらに微笑みかけてくれたみたいだけど、あとは目を瞑ったままに。

「また来てね、お姉さん」

 そう、言ってくれた。

 うん、また来ます。

 さて、と。

「帰ろっか、今日ちゃん」

 私がそう言って、今日ちゃんの二の腕を優しく掴む。

「わっ、上から掴むなよぉ。なんだか連行されるみたいでイヤなんだよ!」

 しー。

 私が口に手を当てたのを見て、今日ちゃんが振り返ってアカルくんの方を確認する。

 眠っている訳ではないだろうけど、とても安心してるみたいに、目を閉じて静かに息をしている。

 その姿は、そのまま綺麗な陶磁器人形みたいで。

 

 

 

 その日の帰り道。

 中野ブロードウェイを出た私達は、そのまま近くの喫茶店で休憩することに。

「あはぁん! 彼ってばぁ、超良い人なのぉ。陶器の雛人形も実家に送ってくれたみたいでぇん! うふぅ! だってよ! ふざくんな!」

 そのまま電話を切った今日ちゃん。

 微妙に機嫌が悪いのは、道中でメイド喫茶の呼び込みの人に、私達が姉妹に間違われたからだと思う。親子じゃないだけ良いと思うけど。

「それにしてもなー、あのアカルって子か。あれあれ、あの子は面白いなぁ」

 にんまり、と八重歯を見せて愉快そうにする今日ちゃん。

「ちょーっと、私の想像するイケメン探偵とは離れてるけど、あれはあれで伸びしろがあるっていうか、あ、待てよ、私はショタコンじゃないぞ! 断じて違うぞ!」

「しょたこん?」

「いい、別に覚えなくていいから」

 何かを必死に押し止める今日ちゃん。

「でも、良かったね」

「あ、あー。まぁ、そうね。一時はどうなるかと思ったけど、なんだかんだで、上手くまとまりそう。めろも……、なんかごめんね、ここまで付き合わせちゃって」

 ふんふん。

「ちゃんと言えよぉ。自分の気持ちを言わないと、出来る彼氏も出来ないからなぁ」

「別にいらない」

「即答だな!」

 だらり、と、ここで椅子にもたれかかるようにする今日ちゃん。なんだか疲れたような表情なのは、さっきの親戚のお姉さんとの会話の結果だと思う。

「あー、たりぃ。結婚たりー。揉めてるのは面倒だし、ラブラブなのも面倒だわー。やっぱり独り身が気楽なのかなぁ」

 ご意見番のマダムみたい。

 でも、と、私。

「今日ちゃん、きっと似合うと思うよ」

「なにが?」

「結婚式は、お雛様みたいに」

「神前式みたいにってこと?」

 こくこく。

 だって、さっきとっても似合ってたから。

「アカルくんと並んでるとね」

 二人とも小さくて、可愛くて。

「お雛様と、お内裏様みたいだったよ」

 ぎろり。

「何が――」

 今日ちゃんが、思いきり手を伸ばしてきて――あ、体、硬いのかな――私のほっぺを、ぐむ、と掴んできて。

「小学生の妹さんもご一緒に、だー!!

 ぎゃー。

「いたいよ、今日ちゃん」

 本当に。

 うん、本当。

 

 

〈了〉

 

 

 

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