憧れ、目標、願い。私はそういった夢を持っていない。だから、毎日が同じ本を繰り返して読むような日々。

 

 最後の締めくくりは決まって、布団で横になること。今日もいつも通り締めくくろうとしている。ひとたび目を閉じれば、闇が辺り一面に広がる。

 

 そう、それこそ私が居る眠りの地。

 

 私は訳もなくひたすら歩いている。その地で呆然と歩いていても、何も見えず、何も聞こえず、何も感じない。それでも、この足を止めることをしない。

 

 何も変わらない闇の世界。どこへ歩いているのかも分からない。

 

 ――足が痛い。

 

 私はとうとうその場に倒れ込む。

 

 

 気が付けば、私は白い世界にいた。さきほどの漆黒はどこにもない。

 

 少年が四角い椅子に座っている。その少年の後ろには大きな本棚がある。

 

 少年は椅子から立ち上がりお辞儀をすると、左手で隣にあった丸い椅子を指差す。座れというのだろうか。私はオドオドとその椅子に座る。

 

 私は少年を注視する。少年は何も語らない。それどころか、私を無視して読書を始めてしまっている。

 

 別に苛立ちはしない。けれど、居心地が悪い。

 

 私は少年へ声をかける。全くの無反応。何度も声をかけても返事はなかった。

 

 そうして溜め息をついた時、少年は私へ本を差し出した。さっきまでずっと読んでいた本を差し出した。

 

 私は受け取って中身を捲る。そして、失望する。

 

 真っ白のページばかりが続き、文字ひとつない。さらに題名もない。紺色のカバーだけが美しい。

 

 これをどう読書したのだろうか。私は唖然として少年を眺める。でも、その少年は静かに微笑んでいた。

 

 

 記憶を思い出せないでいる。

 

 布団から身を起こした私は、寝ぼけた頭でしばらく思考を巡らせた。いつもとは違う世界にいたような気がする。思い出せない。

 

 しかし、枕元にあった紺色のカバーの本には覚えがあった。文字ひとつなく、題名もないその本を。

 

 私はこの本に不満を感じた。その刹那に閃く。

 

 ――書かれてないなら、書けばいいんだ。

 

 本を手にし、布団から抜け出した。

 

<了>

 

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