第一怪:瀬戸大将
瀬戸大将……瀬戸物(陶磁器)で出来た妖怪。多分、割れると死ぬ。
ある所に高名な陶工が居た。
彼の作品は非常に高値で売れるので、多くの美術商が彼の元を訪れ新作をねだっていた。
「先生、どうか次の作品も私の店に卸してください」
「しかし、私はもう瀬戸物を焼くのを止めようと思っているんだ」
彼は多くの人間が利益目当てで自分と付き合い、その上で自分の生活が邪魔されるのが我慢ならなかった。
「先生ほどの人がそのような事を言わないでください」
「だが私は陶工として、名前だけで売れるような駄器を作り続けたくない」
「では解りました、先生が心を込めて作ってくださる物を、私はそれを喜ぶ人にきちんと売りますから」
何度断っても食い下がるので、陶工はどうにか出来ないかと考えた。
「それならば解った、これからも君の所に私の作品は卸す。ただし条件をつけさせてくれ」
「どうぞ、なんでしょうか」
「いくつも駄器を作り続けて、在庫が溢れるのは私として惨めな気持ちになる。
だからまず卸した物が全て売れたら、また新しい物を作って卸そう」
「なるほど、小分けに売っていかれるのですね。それはそれで価値が出ると思いますし、構いません」
「それともう一つ条件を付けさせて貰いたい。
私の作る作品は、ただの観賞用の陶磁器であって欲しくないから
きちんと使って貰える人に売りたい」
「そうですか、でもそれは買う人が買う時になんとでも嘘をつけます」
「ならばこうすれば良い。その作品に“使用済み”と書き添えるんだ。
貴重な皿を飾るのでなく、きちんと使う人ならば、そんな事を気にせずに買ってくれるだろう」
いつまでも渋られて新作を卸されないで居るよりは、と美術商も考え陶工の言葉に納得して、その条件で契約書にサインして帰っていった。
しばらく後、陶工は自分の好きな時に好きな物を焼けるような生活を送れていた。一方、美術商の店は陶工が最初に卸した瀬戸物が全て売れる事は無く、赤字のまま過ごす他無かった。
陶工が作って卸した物は、“骨壷”だった。
<了>